前回はトランジスタの原理を、体験から物理まで深く学びました。
体験: スイッチングと増幅をブレッドボードで実習 - スイッチング: ベースに電流を流すとLEDが点灯(ON/OFF制御) - 増幅: 指で触るとLEDの明るさが変わる(ベース電流の微小な変化 → コレクタ電流の大きな変化、\(I_C = h_{FE} \times I_B\))
半導体の物理: - n型半導体(電子が余る)とp型半導体(正孔ができる) - PN接合: 境界に空乏層ができる。順バイアスで電流が流れ、逆バイアスで遮断 - NPN構造: 薄いベース層を電子が突き抜けることで増幅が起きる
BJTとFETの違い: - BJT: ベース電流で制御。入力インピーダンスが低い。低ノイズでアナログ音響に強い - FET: ゲート電圧で制御(電流が流れない)。入力インピーダンスが極めて高い - ECMマイク内部のJFET: 超高インピーダンスの振動板信号をハイ受けで受け取る(ロー出しハイ受け)
増幅回路: コレクタ抵抗 Rc で電圧変化を取り出し、エミッタ抵抗 Re の負帰還で動作を安定させる
今日はこのトランジスタを組み合わせた差動増幅回路から始めて、それをICに集積したオペアンプを学びます。
前回学んだエミッタ抵抗つきの増幅回路を思い出してください。
V+ から Rc(コレクタ抵抗)を通り、トランジスタのコレクタ→エミッタ→ Re(エミッタ抵抗)→ GND と電流が流れます。ベース(B)に入力信号 Vin を入れると、コレクタの電圧変化が出力 Vout として取り出せる。Rc で電圧変化を取り出し、Re の負帰還で動作を安定させる回路でした。
差動増幅回路は、この増幅回路を2つ並べて、エミッタ側の Re を共有させたものです。
上の図で、T1 と T2 が差動ペアのトランジスタです。エミッタが下部の電流源(2I₀、Re に相当)で繋がっています。各ラベルの意味は:
出力 uo はどこから取り出すか? 図の uo は双方向矢印(↔︎)で描かれていて、T1 のコレクタと T2 のコレクタの2点間の電位差です。Ic1 が増えると T1 側のコレクタ電圧が下がり、同時に Ic2 が減って T2 側のコレクタ電圧が上がる — この差が uo です。
この段階では出力が2本(差動出力)ですが、オペアンプの出力は1本です。この「2本を1本にまとめる」問題は、Part 2 で学ぶカレントミラーで解決します。
この回路の動作を理解する鍵は、共有された Re が合計電流を制限していることです。
Re に流れる電流は Q1 のエミッタ電流と Q2 のエミッタ電流の合計です。Re が十分大きいと、この合計電流はほぼ一定に保たれます(Re での電圧降下がエミッタ電位を決めるため、合計電流が増えようとするとエミッタ電位が上がり、ベース-エミッタ間電圧が下がって電流が抑制される — 前回学んだ負帰還と同じ原理です)。
この「合計電流が一定」という制約のもとで、3つの場合を考えます:
場合1: Vin+ = Vin- のとき(同じ電圧を入力)
Q1 と Q2 に同じベース電流が流れるので、同じコレクタ電流が流れます。Vout+ と Vout- は同じ電位になり、差分はゼロです。
場合2: Vin+ が少し高くなったとき
Q1 のベース電流が増え、Ic1 が増えます。しかし合計電流は Re で制限されているので、増えた分だけ Q2 の Ic2 が減ります。結果として: - Vout+(= V+ - Rc1 × Ic1)が下がる - Vout-(= V+ - Rc2 × Ic2)が上がる - 2つの出力の差が広がる → 差分が増幅された
場合3: Vin+ と Vin- が同時に同じだけ上がったとき(同相信号)
Q1 と Q2 の電流が同じように増えようとしますが、Re が合計電流を制限しているので、どちらも増えられません。結果として Vout+, Vout- ともに変化しない → 同相信号は増幅されない
「差動」とは、2つの入力の差分だけを増幅するという意味です。
この性質は、共有 Re による「合計電流一定」の制約から自然に生まれます。シーソーを想像してください。片方が下がれば必ず反対側が上がりますが、両方同時に下げようとしても支点が動かないので何も起きない — それが差動増幅回路の本質です。
差動増幅は、ノイズを除去する強力な手段です。
バランス伝送(XLR ケーブル): ライブ会場やレコーディングスタジオでは、マイクケーブルが数十メートルにもなることがあります。長いケーブルには外部からのノイズ(照明、モーター、電源など)が乗ります。
バランス伝送では、信号を「+信号」と「-信号(位相を反転したもの)」の2本で送ります。ケーブルの途中で乗るノイズは両方の線に同じように乗ります(同相成分)。受信側で差動増幅すると:
ノイズがきれいに消え、信号だけが2倍になります。
第2回で学んだ「位相」の知識がここで活きています。位相を反転した信号を送り、差動で受けることで、ノイズに強い伝送が実現できるのです。
ここで、差動増幅がノイズを消す原理を音で体験します。
準備するもの: - XLRケーブル(片端のコネクタを外して3本の線を露出させたもの) - アナログミキサー(マイク入力付き) - スピーカーまたはヘッドホン
注意: ミキサーのファンタム電源(+48V)は必ずOFFにしてください。ONのままケーブルの線に触ると危険です。
手順:
XLRケーブルのコネクタ側をミキサーのマイク入力に接続し、ゲインを上げます。反対側は3本の線(ホット=ピン2、コールド=ピン3、グランド=ピン1)が露出しています。
実験A: ホットだけ触る
ホット(ピン2)の線を片手で握ります。
→ スピーカーから「ブーーン」と音が出ます。
これは人体が50Hzのアンテナになって拾ったノイズです。ホットだけにノイズが乗り、ミキサー内部の差動増幅回路がこれを「信号」として増幅しています。Part 1 の場合2(片方だけが変化)と同じ状況です。
実験B: ホットとコールドを同時に触る
同じ手でホット(ピン2)とコールド(ピン3)の線を一緒に握ります。
→ 音が消えます(または大幅に小さくなります)。
同じ手で握っているので、人体が拾った50Hzノイズが両方の線に同じように乗ります(同相成分)。ミキサー内部の差動増幅回路が差分を取ると、同相成分がキャンセルされて消えるのです。Part 1 の場合3(両方が同じように変化)と同じ状況です。
これがバランス伝送の本質です:
| 今の実験 | ライブ会場 | |
|---|---|---|
| 信号線 | 露出した2本の線 | XLRケーブルの Hot / Cold |
| ノイズ源 | 人体が拾う50Hz | 照明・モーター・電源ノイズ |
| 受信側 | ミキサー(差動増幅) | ミキサー(差動増幅) |
| 結果 | 差分でノイズが消える | 差分でノイズが消える |
皆さんがスタジオやライブで使っているXLRケーブルは、まさにこの原理で長距離でもノイズに強い伝送を実現しています。そしてその中核は、今日 Part 1 で学んだ差動増幅回路です。
オペアンプ(Operational Amplifier)は、トランジスタによる差動増幅回路にさらに増幅段や出力段を付加し、1つのICパッケージに集めたものです。
上の図はマイクアンプで使う NJM4580 の内部等価回路です。トランジスタがたくさん並んでいて一見複雑ですが、3つのブロックに分けて考えると見通しが立ちます。
青・緑・橙の3色で、等価回路のどこがどのブロックに対応するかを示しています。
| ブロック | 色 | 役割 | 使っている原理 |
|---|---|---|---|
| 1. 差動入力段 | 青(左) | V+ と V- の差分を検出する | 差動増幅(Part 1)+ カレントミラー |
| 2. 電圧増幅段 | 緑(中央) | ゲインを稼ぐ(100,000倍の大部分) | エミッタ接地増幅(第5回) |
| 3. 出力段 | 橙(右) | 力強く送り出す(ロー出し) | プッシュプル(NPN/PNPペア) |
信号は左から右へ流れます。差動入力で差分を拾い、増幅段でゲインを稼ぎ、プッシュプルで送り出す — この3段構成を知っていれば、オペアンプがブラックボックスではなくなります。中身は全部、第5回で学んだトランジスタの応用です。
各ブロックの詳しい動作原理は Part 7(付録) で、等価回路の部品ひとつひとつと対応づけながら解説します。
オペアンプは三角形の記号で描かれます。
2-2 で内部の3ブロックを見ましたが、回路設計では毎回そこまで遡る必要はありません。代わりに「理想モデル」で考えると動作を簡単に理解できます。理想オペアンプには3つの性質があり、それぞれ内部ブロックの特性に対応しています:
性質1: 入力インピーダンスが無限大
入力端子(V+, V-)には電流が流れません。第4回で学んだ「ロー出しハイ受け」の究極形です。入力インピーダンスが無限大なので、どんなソースからの信号も電圧をそのまま受け取れます。(内部では差動入力段のトランジスタのベースが入力なので、実際にはごくわずかな電流が流れますが、実用上は無視できます)
性質2: 出力インピーダンスがゼロ
出力端子はどんな負荷にも電圧を供給できます。つまり、出力側は完璧な「ロー出し」です。(内部ではプッシュプル出力段が力強く電流を供給しています)
性質3: 開ループゲインが無限大
V+ と V- のわずかな電位差を無限に増幅します。
\[V_{out} = A \times (V_+ - V_-)\]
ここで A(開ループゲイン)は理想的には無限大です。実際の NJM4580 でも約100,000倍(100dB)あり、これは主に電圧増幅段で稼いでいます。
開ループゲインが無限大ということは、V+ と V- にほんのわずかでも差があると、出力が無限大になってしまいます。しかし実際にはオペアンプの出力は電源電圧の範囲内に制限されます。
負帰還(出力を V- に戻す回路)をかけると、オペアンプは出力を調整して V+ = V- になるように動作します。これを「イマジナリーショート(仮想短絡)」と呼びます。V+ と V- は実際には繋がっていないのに、電位が等しくなるのです。
この原理を使うと、オペアンプの動作を簡単に解析できます。
“Operational Amplifier”(演算増幅器)という名前は、増幅だけでなく、入力電圧の足し算、引き算、掛け算(積分・微分を含む)ができることに由来します。電気信号に対して演算を行える — これが第1回で紹介した「表の操作(四則演算で音を処理する)」のアナログ版です。
IC(Integrated Circuit = 集積回路)は、トランジスタ、抵抗、コンデンサなど、特定の機能を果たすために必要な部品をすべて1つのパッケージに集めたものです。
オペアンプもICの一種です。NJM4580 の内部には何十個ものトランジスタが入っていますが、外見は8本の足がついた小さな黒い部品です。
ICのパッケージ(外装)にはいくつかの種類があります。
| パッケージ | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| SIP (Single Inline Package) | 足が1列に並ぶ | 電圧レギュレータなど |
| DIP (Dual Inline Package) | 足が2列に並ぶ | NJM4580DD(これ) |
| QFP (Quad Flat Package) | 足が四方に並ぶ | マイコン、大規模IC |
ブレッドボードで使いやすいのは DIP パッケージです。足のピッチ(間隔)が2.54mmで、ブレッドボードの穴の間隔と同じだからです。
ICを上から見て、切り欠き(ノッチ)または丸い印(ドット)を左側にして、左下が1番ピンです。そこから反時計回り(左回り)にピン番号を数えます。
NJM4580DD の場合、8ピンの DIP パッケージなので: - 左側: ピン1(下)→ ピン4(上) - 右側: ピン5(上)→ ピン8(下)
NJM4580 は、新日本無線(JRC)が製造するオーディオ用オペアンプです。
| ピン番号 | 機能 | 説明 |
|---|---|---|
| 1 | A OUTPUT | A回路の出力 |
| 2 | A -INPUT | A回路の反転入力(V-) |
| 3 | A +INPUT | A回路の非反転入力(V+) |
| 4 | V- | 負電源(マイクアンプではGNDに接続) |
| 5 | B +INPUT | B回路の非反転入力(未使用) |
| 6 | B -INPUT | B回路の反転入力(未使用) |
| 7 | B OUTPUT | B回路の出力(未使用) |
| 8 | V+ | 正電源(4.5Vに接続) |
オペアンプは無数の品種がありますが、NJM4580 はオーディオ用途で定番です。理由は:
NJM4580 は本来、±両電源(例: +9V と -9V)で使うように設計されたオペアンプです。両電源なら出力は 0V を中心に正負に振れるので、音声信号(交流)をそのまま扱えます。
しかしこの講義のマイクアンプでは、電池3本(4.5V)の単電源で動かします。単電源では負の電圧が出せないので、そのままでは音声信号の負の部分が切れてしまいます。
そこで Part 6 で詳しく説明するバイアス分圧(R3/R4 による 2.25V の仮想グランド)を使います。出力の中心を 0V ではなく 2.25V に持ち上げることで、音声信号が 2.25V を中心に上下に振れ、0V〜4.5V の範囲に収まるようにします。
単電源動作のポイント:
オペアンプに外付け抵抗2本を追加するだけで、正確な増幅率の増幅器が作れます。マイクアンプで使うのは反転増幅回路です。
構成は次の通りです: - 入力信号を抵抗 Rin(入力抵抗)を通して V-(反転入力、ピン2) に接続 - 出力(ピン1)から抵抗 Rf(帰還抵抗)を通して V-(反転入力、ピン2) に接続 - V+(非反転入力、ピン3) は基準電圧(GND またはバイアス電圧)に接続
「反転」と呼ばれる理由は、入力信号の正負が反転して出力されるからです(後で導出します)。
イマジナリーショートの原理を使って増幅率を求めます。
ステップ1: イマジナリーショートにより \(V_+ = V_-\)
V+ は GND(0V)に接続されているので:
\[V_- = 0V\]
V- の電位が 0V になるということは、V- は GND に繋がっていないのに 0V に保たれます。これを仮想接地(バーチャルグランド) と呼びます。
ステップ2: Rin を流れる電流を求める
Vin から V-(= 0V)に向かって、Rin を通って電流が流れます:
\[I_{in} = \frac{V_{in} - 0}{R_{in}} = \frac{V_{in}}{R_{in}}\]
ステップ3: この電流はどこへ行くか
理想オペアンプの入力端子には電流が流れません(性質1)。したがって、Rin を流れてきた電流はすべて Rf を通って出力へ流れます:
\[I_{in} = I_f\]
\[\frac{V_{in}}{R_{in}} = \frac{0 - V_{out}}{R_f}\]
ステップ4: Vout について解く
\[V_{out} = -V_{in} \times \frac{R_f}{R_{in}}\]
\[\boxed{増幅率 = -\frac{R_f}{R_{in}}}\]
マイナス符号は信号が反転することを意味します。入力が正に振れると出力は負に振れ、入力が負に振れると出力は正に振れます。音声信号の場合、位相が180°反転しますが、人間の耳には区別がつかないので実用上は問題ありません。
マイクアンプの場合: \(R_f\) = R5 = 27kΩ、\(R_{in}\) = R2 = 1kΩ
\[増幅率 = -\frac{27k}{1k} = -27\]
振幅が27倍に増幅され、位相が反転します。マイクからの微弱な信号(数mV)を27倍に増幅しています。
反転増幅回路と対をなすもうひとつの基本回路が非反転増幅回路です。マイクアンプでは使いませんが、オペアンプの基本として知っておいてください。
構成は反転増幅とは逆で: - 入力信号を V+(非反転入力) に直接接続 - 出力から Rf を通して V-(反転入力) に帰還 - V- から Ri を通して GND に接続
増幅率の導出もイマジナリーショートから行います。
ステップ1: \(V_+ = V_-\) かつ \(V_+ = V_{in}\) なので \(V_- = V_{in}\)
ステップ2: V- は GND と Vout の間を Ri と Rf で分圧した点なので:
\[V_- = V_{out} \times \frac{R_i}{R_i + R_f}\]
ステップ3: 2つの式から:
\[V_{out} = V_{in} \times \left(1 + \frac{R_f}{R_i}\right)\]
\[\boxed{非反転増幅の増幅率 = 1 + \frac{R_f}{R_i}}\]
| 反転増幅回路 | 非反転増幅回路 | |
|---|---|---|
| 信号の入力先 | V-(反転入力)にRin経由 | V+(非反転入力)に直接 |
| 増幅率 | \(-R_f / R_{in}\) | \(1 + R_f / R_i\) |
| 位相 | 反転(180°) | 同相(0°) |
| 入力インピーダンス | Rin(低い) | 非常に高い(V+直結) |
| 最小増幅率 | 0(Rf = 0 のとき) | 1(Rf = 0 でも1倍) |
| マイクアンプでは | こちらを使用 | — |
マイクアンプで反転増幅を使う理由は、C1 経由の信号を R2(入力抵抗)で電流に変換してから増幅するトポロジーが、単電源バイアス設計と相性が良いためです。
この回路は4つのブロックに分かれています:電源、マイク、アンプ、ジャック(出力)。ここまでの5回で学んだ知識を総動員して、すべての部品の役割を説明します。
電池 (4.5V)
R1 (3kΩ) — マイクのドレイン抵抗
第4回で学んだECMマイクの中にはFET(電界効果トランジスタ)が入っています。FETのドレイン端子に接続された抵抗で、FETの電流変化を電圧変化に変換します。第5回で学んだトランジスタのコレクタ抵抗 Rc と同じ役割です。
mic/C9767 — エレクトレットコンデンサマイク(ECM)
第4回で詳しく学びました。音圧によってエレクトレット膜と金属板の距離が変わり、静電容量が変化し、FETが電圧変化に変換します。
C1 (10uF) — DCカットコンデンサ(入力側)
第4回で学んだDCカットの役割です。マイクのFETにはDCバイアス電圧がかかっていますが、アンプに送りたいのは音声信号(AC成分)だけです。C1 は DC を遮断し、AC だけを通します。
第4回で計算したインピーダンスを思い出しましょう:
\[Z_C = \frac{1}{2\pi f C}\]
C1 = 10uF の場合: - 100Hz: \(Z_C = \frac{1}{2\pi \times 100 \times 10 \times 10^{-6}} \approx 159\Omega\) - 1kHz: \(Z_C \approx 15.9\Omega\) - 0Hz(DC): \(Z_C = \infty\)(完全に遮断)
低い周波数ほどインピーダンスが大きくなる、つまり通しにくくなる。DCは完全に遮断される。これがDCカットの原理です。10uFという値は、音声帯域(100Hz以上)のインピーダンスがR2(1kΩ)に比べて十分小さくなるように選ばれています。
R2 (1kΩ) — 入力抵抗(Rin)
反転増幅回路の入力抵抗です。C1 を通過した音声信号(AC成分)は、R2 を通ってオペアンプのピン2(反転入力)に入ります。Part 5 で導出した増幅率の式 \(-R_f/R_{in}\) の \(R_{in}\) に相当します。
R3 (100kΩ) と R4 (100kΩ) — バイアス分圧回路
R3 と R4 は、第3回で学んだ分圧回路です。電源電圧 4.5V を分圧して、オペアンプの V+(ピン3)に基準電圧を供給します。
\[V_{bias} = 4.5V \times \frac{R_4}{R_3 + R_4} = 4.5V \times \frac{100k}{100k + 100k} = 2.25V\]
なぜ 2.25V のバイアスが必要なのか。オペアンプは電源電圧の範囲(0V〜4.5V)でしか出力できません。音声信号は正負に振れる交流(AC)ですが、電源が 0V〜4.5V の単電源なので、負の電圧を出力できません。
そこで、出力の中心点を電源電圧の真ん中(2.25V)に持ち上げます。音声信号は 2.25V を中心に上下に振れることで、0V〜4.5V の範囲内に収まります。これは第4回で学んだ DC/AC の概念の応用です。
U2: NJM4580DD — オペアンプ
Part 4 で学んだ通りです。反転増幅回路として動作します。
R5 (27kΩ) — 帰還抵抗(Rf)
出力(ピン1)から反転入力(ピン2)への負帰還です。R2 = 1kΩ と組み合わせて:
\[増幅率 = -\frac{R_5}{R_2} = -\frac{27k}{1k} = -27(振幅27倍、位相反転)\]
第5回で学んだトランジスタの負帰還(エミッタ抵抗 Re)と同じ原理です。出力の一部を入力に戻すことで、増幅率を安定させています。マイナス符号は位相が反転することを意味しますが、音を聴く分には影響ありません。
C2 (220uF) — DCカットコンデンサ(出力側)
アンプの出力は 2.25V を中心に振れていますが、イヤホンやスピーカーに送りたいのは AC成分(音声信号)だけです。C2 が出力の DC 成分(2.25V)をカットし、AC だけを通します。
C2 = 220uF はかなり大きな容量です。これは低い周波数の音(低音)もしっかり通すためです:
イヤホンのインピーダンス(16〜32Ω)に比べて十分小さいので、低音までしっかり通ります。
L, G, G, R — ステレオジャック
このマイクアンプはモノラルなので、L と R の両方に同じ信号を出力します。
音波 → ECMマイク(音圧→電圧変換、FETでインピーダンス変換)
→ C1(DCカット、AC信号のみ通過)
→ R2(入力抵抗)→ オペアンプ NJM4580(反転増幅、27倍)
→ C2(DCカット、2.25Vのバイアスを除去)
→ ステレオジャック → イヤホン
学んできた素子がすべて繋がります:
| 部品 | 学んだ回 | 役割 |
|---|---|---|
| 抵抗 R1〜R5 | 第2回, 第3回 | 電流制限、分圧、増幅率の決定 |
| コンデンサ C1, C2 | 第4回 | DCカット(AC通過、DC遮断) |
| ECMマイク(FET内蔵) | 第4回 | 音圧→電圧変換、インピーダンス変換 |
| オペアンプ NJM4580DD | 今日 | 差動増幅、反転増幅回路(27倍) |
次回は「マイクアンプの組み立てと動作確認」。今日学んだ回路図を見ながら、ブレッドボード上に段階的に回路を組み立てます。各ステップでテスターによる電圧確認を行い、最後にイヤホンで音が聞こえることを確認します。
ここでは NJM4580 の等価回路を、部品ひとつひとつ追いかけながら読み解きます。時間が許せば講義で触れますが、配布資料として自習用にも使えるようにしています。
下の図で、等価回路の内部を10個のブロック (A)〜(J) に分解しました。赤い矢印が信号の流れです。左(入力)から右(出力)へ順に見ていきます。
参考:元の等価回路と見比べてください。
| 記号 | 名前 | 色 | 役割 |
|---|---|---|---|
| (A) | 差動ペア | 青 | +INPUT と -INPUT の差分を検出 |
| (B) | カレントミラー | 紫 | 差動出力(2本)を1本にまとめる |
| (C) | 電流源 | 黄橙 | 差動ペアの合計電流を一定に保つ |
| (D) | 能動負荷 | 緑 | コレクタ抵抗の代わり。巨大ゲインの秘密 |
| (E) | 主増幅トランジスタ | 水色 | エミッタ接地増幅の本体 |
| (F) | 位相補償コンデンサ | 黄 | 高周波の発振を防止(30pF) |
| (G) | Vbeマルチプライヤ | 赤 | 出力段のバイアス電圧(≈1.2V)を精密に生成 |
| (H) | PNP 出力 [PUSH] | 水色 | V+ から負荷へ電流を押し出す |
| (I) | NPN 出力 [PULL] | 橙 | 負荷から GND へ電流を引き込む |
| (J) | バイアスダイオード | 紫赤 | クロスオーバー歪みを防止 |
等価回路の青い領域です。-INPUT と +INPUT からそれぞれベースに繋がる NPN トランジスタ2個が見えます。Part 1 で学んだ差動増幅回路の心臓部です。
2つのエミッタは下部で繋がり、(C) の電流源に接続されています。この電流源が合計電流を一定に保つことで、差分だけが増幅され、同相信号(両方に同じように乗るノイズ)はキャンセルされます。
Part 1 で見た通り、差動ペアの出力は2つのコレクタ間の電位差(2本)です。これを1本にまとめるのが次の (B) です。
紫の領域、差動ペアの上部にある PNP トランジスタ2個です。
カレントミラーとは: 同じ型のトランジスタ Q1 と Q2 のベースを繋いだ回路です。
差動増幅での役割: Part 1 の回路では差動ペアのコレクタに抵抗 Rc1, Rc2 がありました。オペアンプでは、片側の Rc をカレントミラーに置き換えます。
カレントミラーが差動ペアの片側の電流 Ic1 をコピーして、もう片側のコレクタに流し込むと、1つの点に Ic1(上から)と Ic2(下から)が合流します。
こうして差動出力(2本)がシングルエンド出力(1本)に変換され、次の (E) に渡されます。片方だけ使う方法ではゲインが半減しますが、カレントミラーなら差動の情報を100%活かせます。
黄橙の領域、差動ペアの下部にある抵抗とトランジスタの回路です。
Part 1 では共有エミッタ抵抗 Re が合計電流を制限していました。しかし抵抗だけでは電源電圧の変動や温度変化で電流が揺らぎます。ここではトランジスタを使った定電流回路で、より高精度に一定電流を供給しています。原理は (B) のカレントミラーと同じ — 基準電流を作り、それをコピーする仕組みです。
緑の領域、V+ ラインから下に向かう PNP トランジスタ群です。
第5回で学んだエミッタ接地増幅では、V+ → コレクタ抵抗 Rc → トランジスタ という構成でした。ゲインは「Rc のインピーダンス × トランスコンダクタンス」で決まります。
オペアンプでは、この Rc の位置にトランジスタを置きます。これが能動負荷です。
なぜゲインが上がるか? トランジスタのコレクタ電流はベース電流で決まり、コレクタ-エミッタ間電圧にはほとんど依存しません。つまりコレクタ側から見ると「電圧を変えても電流がほぼ変わらない」= 等価的に非常に高い抵抗(数MΩ〜数十MΩ)として振る舞います。通常の抵抗 Rc(数kΩ)より桁違いに大きいので、ゲインも桁違いに大きくなります。これが開ループゲイン100,000倍の秘密です。
水色の領域、等価回路の中央下部にある NPN トランジスタです。
(A)(B) で1本にまとめた信号がこのベースに入り、(D) の能動負荷をコレクタ側に持つエミッタ接地増幅として動作します。オペアンプのゲインの大部分はここで生まれます。
黄色の領域、等価回路の中央にある小さなコンデンサ記号(2本の平行線)です。
コンデンサは高周波ほどインピーダンスが低い(第4回: \(Z_C = 1/(2\pi fC)\))ので、高い周波数の信号をバイパスしてゲインを下げ、発振を防ぎます。
赤い領域、等価回路の中央にある PNP/NPN が向かい合い、横に抵抗が並んだ小さな回路です。
出力段の PNP (H) と NPN (I) は、それぞれ Vbe ≈ 0.6V かからないと ON しません。合計で約1.2V のバイアスが必要です。ダイオード2個(0.6V × 2)でも作れますが、微調整ができません。
Vbeマルチプライヤは、トランジスタ1個 + 抵抗2本(R1, R2)で任意の電圧を作ります:
\[V_{AB} = V_{be} \times \left(1 + \frac{R1}{R2}\right)\]
R1 = R2 なら 1.2V、R1 = 2×R2 なら 1.8V。抵抗比で連続的に微調整でき、同じチップ上にあるため温度変化にも自動追従します。
水色の領域、等価回路の右上にある PNP トランジスタです。
エミッタが V+ に繋がっています。増幅段からの信号電圧が上がると、ベース電圧も上がりますが V+ よりは低いままなので、ベース-エミッタ間が順バイアスになり ON します。
V+ → PNP(コレクタ→エミッタ)→ OUTPUT の経路で、電源から負荷に向かって電流を押し出します(PUSH)。
橙の領域、等価回路の右下にある NPN トランジスタです。
増幅段からの信号電圧が下がると、NPN のベース-エミッタ間が順バイアスになり ON します。
OUTPUT → NPN(コレクタ→エミッタ)→ GND の経路で、負荷から GND に向かって電流を引き込みます(PULL)。
紫赤の領域、(H) と (I) の間にある2個のダイオードです。
トランジスタは Vbe ≈ 0.6V かからないと ON しないので、信号が 0V 付近を通過するとき、(H) も (I) も同時に OFF になる隙間が生じます。この隙間で波形がカクッと歪むのがクロスオーバー歪みです。
ダイオード2個が常時 0.6V × 2 = 1.2V の電位差を (H)/(I) のベース間に与え、両方を「ギリギリ ON」に保ちます。実際には (G) の Vbeマルチプライヤがより精密にこの役割を果たしています。
+INPUT / -INPUT
|
(A) 差動ペア: 差分を検出
(B) カレントミラー: 2本 → 1本に変換
(C) 電流源: 合計電流を一定に保つ
|
(D) 能動負荷: Rc の代わり → 巨大ゲイン
(E) 主増幅Tr: エミッタ接地増幅の本体
(F) 30pF: 高周波の発振を防止
(G) Vbeマルチプライヤ: 出力段バイアス ≈ 1.2V
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(H) PNP [PUSH]: V+ → 負荷(正方向)
(I) NPN [PULL]: 負荷 → GND(負方向)
(J) バイアスダイオード: クロスオーバー歪み防止
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OUTPUT
10個の部品ブロック、すべてが第5回で学んだトランジスタの応用です。「ベース電流でコレクタ電流を制御する」という1つの原理を、差動ペア・カレントミラー・エミッタ接地・能動負荷・プッシュプル・Vbeマルチプライヤとして組み合わせただけです。
(講義実施後に記入)